おしりの症状と疑われる病気
おしりの病気は、患部を見せる恥ずかしさから、医療機関での治療を行わない方が多いです。
しかし、そのまま放置すると、痛みや症状に悩まされ続けることはもちろん、不安を抱えたまま日常生活を過ごすことになります。
一度、勇気を出して受診していただければ、あとは医師が責任を持って患者様の不安・お悩みを解決いたします。
おしりが腫れて痛い
おしりが腫れていて痛みもある場合、いぼ痔や肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)、あな痔(痔瘻:じろう)といった病気が考えられます。
いぼ痔
いぼ痔とは、肛門にいきみ等による負荷がかかることで血液の流れが悪くなり、毛細血管の集まっている部分がうっ血して腫れ上がった状態を指します。通常、頻度の多いものは痛みがない内側のいぼ痔(内痔核)ですが、できる場所や腫れ方で痛みを伴う場合があります。
肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)、あな痔(痔瘻:じろう)
おしり(肛門)にある腸と肛門の境目の部分を歯状線と呼んでおり、歯状線には肛門小窩(こうもんしょうか)という小さなくぼみがあります。このくぼみで細菌が繁殖して、周囲に膿(うみ)のかたまりを作ってしまったものを、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)といいます。
この場合、化膿止め(抗生剤)や痛み止め(鎮痛剤)でよくなることはあまりなく、皮膚がやぶれて自然に排膿されるか、病院で切開をして排膿する処置が必要になります。
また、皮膚がやぶれて自然に排膿された場合、いったんは痛みや腫れが消えて、炎症反応も落ち着いてきますが、皮膚に膿が出てくるトンネルができてしまう場合があります。この状態をあな痔(痔瘻:じろう)といい、手術が必要になります。
切らずに治す痔核注射療法(ALTA療法)
いぼ痔等の内痔核に効果的な治療法として、「硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸(ALTA)による注射療法」が多く普及しています。一般的に「ALTA療法」といわれています。
この治療法は、メスで内痔核を切ることなく、ALTAを注射で痔核内に投与することで痔核を固めて小さくし、脱出と出血症状を改善します。痛みを伴うことがほとんどなく、治療にあたっては、特殊な投与技術(四段階注射法)が必要なため、決められた手技の講習会を受講した専門医でなければ治療を行えません。
ALTA療法では、「ジオン注」という治療薬を使用します。ジオン注の有効成分は、硫酸アルミニウムカリウム水和物とタンニン酸です。
硫酸アルミニウム水和物…出血症状や脱出症状を改善する
タンニン酸…硫酸アルミニウム水和物の働きを調整する
痔核注射療法(ALTA療法)の流れ
1まず、十分な診察を行って痔核注射療法の適応となる内痔核かどうかを診断します。全周性に肛門から脱出した内痔核や嵌頓内痔核の場合は、適応にならない場合があります。
2血液検査(一般採血、感染症検査)や心電図検査などを行い、全身状態の評価を行います。
3手術前日または手術当日に下剤の内服(通常は内視鏡検査や肛門手術と同様の下剤)、治療に対する準備を行います。
4手術は、まずおしりから肛門鏡を挿入します。手術中は、病変の確認のため何度か出し入れする必要があります。この時、痛みを伴わずに十分肛門が開くようであれば、麻酔の必要はありませんが、痛みを伴う場合は麻酔を行う場合もあります。
5痔核に薬剤を十分浸透させるため、四段階で注射を行います。注射後は、肛門内を指でマッサージして、注射した薬剤を十分にひろげます。
6注射後は最初出血がみられますが、通常は薬剤の浸透によって止血します。肛門内の止血を確認したところで手術終了となります。
切痔核注射療法(ALTA療法)後について
投与後の早い時期に、痔核に流れ込む血液量が減少して出血が止まり、脱出の程度も軽くなります。投与された部分が少しずつ小さくなり、引き延ばされていた支持組織が元の位置に固定され、早い方では翌日から脱出がみられなくなります。
副作用について
痔核注射療法によって起こる副作用は下記の通りです。下記以外にも変わった症状が出るようであれば、我慢せず早めに受診をしてください。
- 血圧低下、頭痛、気分不快(吐き気、食欲不振)
投与後、早い時期に症状が出ることがあります。 - 肛門部の鈍痛、排便困難
多くは数日で改善されます。 - 発熱
1週間~2週間以内に39度程度の発熱が一過性にみられることがあります。 - 潰瘍、出血、狭窄
腫れのないおしりの痛み
おしりが腫れてはいないが排便時に痛む、いきむと痛い、長く座っていると痛い、突然痛くなるという場合は、肛門や腸管内の病気や、腫れを伴わない肛門周囲の病気の可能性があります。
切れ痔(裂肛:れっこう)
肛門の皮膚が裂けてしまい、排便時に痛みと出血を伴う状態です。原因の多くは硬い便ですが、下痢便の場合にも生じることもあります。
また、急性期の治療を行わずに放置すると慢性化して治りにくくなり、場合によっては傷が徐々に深くなり、肛門潰瘍と呼ばれる状態になることがあります。そうして傷の痛みが長く続くと、精神的に排便するのが怖くなります。すると、肛門の緊張がさらに強くなって治りが悪くなるために、肛門狭窄をきたす場合もあります。
急性の切れ痔は、坐薬・軟膏および排便コントロールで良くなることがほとんどですので、恥ずかしがらずに診察を受けていただくのが望ましいです。
肛門周囲の病気
おしりは便が付着する場所であるために不潔になりやすく、皮膚炎がおこりやすいです。症状としては、かゆみを感じることが多いですが、ひどくなると痛みや出血を伴うこともあります。
肛門周辺に毛嚢炎や股ずれができると、肛門周囲膿皮症(こうもん-しゅうい-のうひしょう)になることがあります。治療としては、抗生剤の軟膏を使用しますが、皮膚炎と同じく洗浄と乾燥を行うことが大切です。
また、性行為で感染することが多い肛門(周囲)ヘルペスが発症した際にも、おしりの痛みが出ることがあります。肛門(周囲)ヘルペスは、抗ウイルス剤の軟膏や内服薬による治療が必要です。
特発性肛門痛
おしりにいぼ痔や切れ痔があるわけでもないのに、突然肛門の奥の方が痛くなる場合があります。キューッと締めつけられるような強い痛みで、排便とは関係なく起こります。 特発性肛門痛の原因はさまざまあり、一概にはいえませんが、最も多い原因は肛門括約筋の過剰収縮といわれています。 肛門括約筋は、無意識のうちに肛門を締めて便の失禁を防いでいますが、この機能がうまく調整されず、無意識のうちに過剰収縮をきたし、痛みを感じる場合があります。特発性肛門痛に対する根本的な治療はありませんが、入浴は筋肉の緊張をやわらげるために効果的です。また、便意を過敏に感じやすい方には、安定剤等の服用が効果的な場合もあります。
ただ、原因の判断が難しいため、いくつか有効な方法を気長に試していくことになります。
大腸がん
進行している大腸がんの場合、おしりの奥の重苦しい痛みが少しずつひどくなり、便も出にくくなっていきます。この場合、早急に大腸検査を受けていただき、治療を行う必要があります。
おしりがかゆい
おしりがかゆくなる状態を総称して「肛門掻痒症(こうもんそうようしょう)」と呼びます。原因がわからないことも多いですが、治療が必要な場合もあります。
かゆみの主な原因としては、拭ききれていない便によるかぶれ、肛門疾患に関わって出た分泌物の刺激、カンジダ(カビの一種)の感染、アレルギー体質、ストレス、石鹸や薬、下着等によるかぶれがあります。
便をきちんと拭いたつもりでも、体毛に付着した少量の便が原因でかゆみを引き起こすことがあります。肛門の内側にむずがゆさを感じる場合は、肛門内に残ってしまった便が原因となっていることが多いといわれています。
おしりのかゆみが発生すると、どうしても神経質になってしまい、排便後や入浴後におしりを強く拭きがちです。その結果、肛門及び肛門周囲に小さな傷をつくり、さらなるかゆみを作っているケースが多いです。
また、かゆいからといって強くひっかいてしまったり、刺激を与えたりすることで、小さな傷から皮膚を湿疹化させてしまうことが多いので、かきむしらない、優しく洗浄する、アルコールや刺激物の飲食をできるだけ避ける等、おしりに対するケアが非常に大事になります。
おしりのかゆみが肛門疾患に関わって出た分泌物の刺激やカンジダ(カビの一種)感染による場合は、肛門疾患の治療またはカンジダに対する治療が必要になりますので、長期にかゆみが継続している場合は、恥ずかしがらずに診察を受けて、必要な治療を行うことが望ましいです。
便秘と下痢をくり返している
IBS(過敏性腸症候群)
ストレス等の影響により、腹痛や腹部の不快感に加え下痢や便秘などが起こり、それが慢性的にくり返される疾患です。
腸と脳には密接な関係があり、脳が不安やストレスを感じた時、そのストレスが信号となって腸に伝わります。IBSの場合、この信号が伝わりやすい状態になっており、腸が反応を起こしやすくなっています。
普段ならば、時折身体の不調や食生活の変化で現れる腸の異常ですが、IBSの場合はストレスを感じるたびに腹痛や下痢、便秘が起き、以下の状態に悩まされることもあります。
- 通勤中の車や電車で急におなかが痛くなる
- 通学中に急におなかが痛くなる
- 試験や会議等の緊張する場面が近づくとおなかが痛くなる
- 外出中や旅行中におなかが痛くなり、トイレを探すことが多い
症状が起きる不安で外出をすることが怖くなってしまい、実際に日常生活に影響が出ることもあります。
最近では、腸が過剰に反応する仕組みにセロトニンという情報伝達を行う物質が係わっていることがわかってきました。このセロトニンをうまくコントロールすることで、ストレスを感じた場合でも症状を抑えることができます。
IBS診断の際にはどんな時に、どのくらいの時間で、どんな様子で症状が起こるのかをお聞きし、他の病気の可能性がないかを含めて診断していきます。検査を行う場合もありますが、その場で大腸内視鏡検査を行うことはありませんので、安心してご来院ください。
基本的には腸を良い調子に保つために、食事のリズムや内容に気を付け、睡眠を十分にとることが大切です。加えて、朝の排便の時間をとり、ストレスをなるべくうまく解消するといった、生活の改善が必須となります。
下痢を繰り返し起こしている場合は、腸への刺激を少なくするため、辛い物や冷たい物、脂っこい物を避けるようにしましょう。牛乳等の乳製品やお酒も下痢を引き起こす可能性があるので控えたほうがいいでしょう。
便秘の場合も、香辛料等の刺激の多い物は避けます。その他に、便が柔らかくなるように水分や食物繊維を積極的に摂取できるような食事を取ることを心がけます。
また、運動は腸の働きを正常に整える効果が見込めるだけでなく、ストレスの解消にもなります。無理に負荷の大きい運動をする必要はありません。起床時や就寝前のストレッチや散歩等、気持ち良くできる程度の軽い運動を生活に取り入れましょう。
ただ、実際のところIBSは食事療法や運動療法だけですぐに症状を改善させるのは難しく、日常生活に影響が出ている場合は薬を使用するのも効果的です。症状に合わせて治療薬が処方されますが、近年では新しいタイプの治療薬として腸のセロトニンに働きかけて早い段階から確実に症状を改善する薬も用いられています。
検査費用
大腸内視鏡検査の費用は、3割負担の場合、観察のみで終了した場合の多くは7,000円前後ですが、病理組織検査を行った場合は10,000円~18,000円程度かかるとお考えください。大腸内視鏡ポリープ手術を行った場合の多くは20,000円前後ですが、複数の大腸ポリープを切除したり、薬剤を多く用いた場合は、最大で28,000円程度かかる場合がございます。
大腸内視鏡検査(観察のみ)
1割負担 | 2,500円前後 |
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2割負担 | 5,000円前後 |
3割負担 | 7,000円前後 |
大腸内視鏡検査+病理組織検査
1割負担 | 3,500円~6,000円前後 |
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2割負担 | 7,000円~12,000円前後 |
3割負担 | 10,200円~18,000円前後 |
大腸内視鏡ポリープ手術(2cm未満)
1割負担 | 6,600円~9,500円前後 |
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2割負担 | 13,200円~19,000円前後 |
3割負担 | 19,600円~28,000円前後 |
※初診料・再診料は上記金額に含まれておりません。
※前処置薬や鎮静剤使用時の金額は上記金額に含まれております。
※病理組織検査や大腸ポリープ手術は個数によってかかる費用が異なります。
検査費用
ピロリ菌は、萎縮性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の炎症性疾患、胃がんやリンパ腫などの発症に密接に関連した病原細菌といわれています。近年ではピロリ菌が胃炎や胃・十二指腸潰瘍の形成に関与しているということが明らかになり、診断に対する除菌治療が保険の適用を受けました。
2000年11月にピロリ菌の感染に伴った胃潰瘍と十二指腸潰瘍に除菌治療が保険適用になった後、2013年2月21日からはピロリ菌の感染による慢性胃炎に対しても除菌治療が保険適用になりました。また、国際がん研究機関によるヒトへの発がん性を総合評価した分類では、ピロリ菌は発がん性があるグループ1(ヒトに対する発癌性があり、ヒトでの十分な証拠もあり)に評価されています。しかし、ピロリ菌による疾患が現れるのは保菌者の約3割程度といわれており、残りの7割の人は持続感染しながらも症状が出ない健康保菌者(無症候性キャリア)だともいわれております。
検査の方法
一般検査
- 尿素呼気試験
- 抗体法(血中・尿中ヘリコバクター・ピロリ抗体測定法)
- 糞便中抗原測定
内視鏡生検を用いた検査
- 迅速ウレアーゼ試験
- 鏡検法
- 培養法
ピロリ菌の除菌治療
除菌治療とは、ピロリ菌を薬で退治する治療です。現在、日本で保険診療に認可されている除菌療法は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と抗生剤2剤(アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM))を組み合わせた「PPI+AMPC+CAM」の3剤併用療法で、3剤を7日間服用します。
この方法による除菌成功率は、80%程度とされてきましたが、近年クラリスロマイシンに対する耐性株が増え、低下したという報告もあります。そして、「PPI+AMPC+CAM」による一次治療が失敗した場合、クラリスロマイシン(CAM)をメトロニダゾール(MNZ)に変えて「PPI+AMPC+MNZ」による二次治療まで保険適応になっています。
除菌療法に対する副作用は、下痢や軟便の報告が多く、原因として抗菌薬による腸管刺激作用や腸内細菌のバランス変化等と考えられております。 その他、報告は少ないですが味覚異常や発疹もみられています。
なお、ピロリ菌の除菌療法が成功すると、ピロリ菌が関係している様々な病気のリスクは下がりますが、ゼロにはなりません。除菌後も医師と相談の上、定期的な検査を受けることが望ましいです。